真選組のお母さん
近藤さんが風邪を引いた。
高熱を出して、咳が止まらず、鼻水もダラダラ流して、異常な状態に陥った。
昔からある言葉「馬鹿は風邪をひかない」といわれてきたが、近藤さんは馬鹿は馬鹿だが、 ただの馬鹿ではないので、風邪だって引くこともある。
しかし、今回の風邪は何かがおかしかった。
薬を飲んでいれば治ると医者が言っていたのも関わらず、一向に治る気配がなかった。
心配する隊士達に「大丈夫だ」「心配するな」と、いつもの笑顔で答えていたのに。
突然にパタリと簡単に倒れた。
「こ、ここ、こ近藤さぁーーーーーーーん!!!」
その日の屯所は台風が直撃を受けたような雷が落ちたようなテロリストが乗り込んで きたかのような。
皆が皆、混乱と驚きと不安と失望がごっちゃになってパニくった。
とりあえず、土方は落ち着いて近藤を寝室に運び、足の速い山崎に医者を呼びに 行かせた(この時点ですでに混乱している)もちろん、前に来た医者なんかは呼ばせなかった。
それが三週間も前の出来事。
近藤さんはそれから、起きたり寝たりと不定期に過ごしていた。
あまりの高熱に本人も意識があいまいで、声をかけても「ああ」とか「うう」とか、よく 解らない返事をしている。
本当なら病院に連れて行くのが一番なのだが、こんな時にかぎって、テロリスト達の 行動が活発になっていた。
そんな中、わざわざ真選組の局長と云う、高級餌をピラニア共に与える必要はない。
病院にも護衛を置けば良いのだろうが、本音を言えば、自分の手の届くところに 居て欲しい。
あと屯所自体、てんやわんやなのに他の場所に人材を派遣するのが勿体無いと云うの も本音だったりする。
あちらこちらで事件が起きて、対処や人数や時間が足りなく、日に日に隊員達の顔 色は見事な群青と土留色になってきていた。
あの沖田でさえ、目の下にクマなんぞをつくって、山崎はすでに生ける屍。倒れてもおかしくない。
それでも近藤の世話だけは皆、キッカリちゃんとしていた、愛の成せる技である。
それが二週間前の出来事。
ようやっとテロリスト達が大人しくなってきた頃、突然に近藤さんの容態が悪化した。
事件が治まってくるのと同じに、熱が下がり咳も無くなり鼻水のためのティッシュが 必要としなくなった矢先に、一気に悪くした。
流石に危ないと思ったので素早く病院に連れて行き、入院させようとしたら、近くの 工事現場で事故が起こったらしく、怪我人がたくさん出たらしい。
違う病院に連れて行く時間もなかったので、とりあえず点滴だけをして屯所に帰って きた。
それでも、体調は優れない。
倒れた時と同じような、高熱と咳と鼻水と大量の汗とガラガラ声が復活した。
体の節々に痛覚があるらしいと診断されたので、医者が言うには「季節はずれの インフルエンザもどき」らしい。もどきって何だ、もどきって。
だから、その病気に良く効く薬を飲ませつづけた。
それが一週間前の出来事。
そして、今現在。土方の目の前には、近藤さんと思しき人物が布団の上で、大の字 で寝ている。
自分の後ろに溜まっている隊士達は、怯えながら局長と副長の姿を交互に見ていた。
爽やかな五月の風が流れるが、当てられている方も爽やかになると云う訳ではない。
むしろ、よく解らない瘴気が渦巻いている。特に副長の周りから。
その瘴気にあてられて、隊士のほとんどが何も言えない。
もう、どこからツッコんでいったら解らない混乱した状況でと云うか、もはやカオスの中で、やっぱりこの人だけは普通の住人ではなかった。
「近藤さぁーーん、起きくだせェ。もう、朝ですよぉーーー…」
「んんっ…?………んあ…」
「早く起きて、ソコでドス黒いオーラを放っているムッツリ下半身男に正義の鉄槌を 喰らわして下せェ」
「テメーーー!!!どさくさに紛れて何言ってんだ!!!!コラッ!!!」
今にも斬りにかかりそうな土方を見向きもしないで、沖田は近藤の身体をユサユサと 揺さぶる。
「近藤さぁーーーん」
「ぅおっ……総悟か、なんだ?…どうした」
頭を掻きながら、腹筋だけで起き上がる。『くぁっ…』と大きく欠伸をして、 目の端に涙を浮かべた。
「おお…皆、おはよう」
能天気に自分の部屋の前に群がる隊士達に朝の挨拶をする。
はだけた腹をボリボリと掻く姿は近藤その人だが、彼らは近藤の姿をした違う 人物だと思った。
…いや、彼らは近藤の姿をした違う人物だと思いたかった。
なぜなら。
「近藤さん、起きた所悪いんですがね。ちょいとお聞きしたい事がありまさァ」
「何だ、何だ。いきなり」
「ソレって、何ですかィ?」
「それ?」
「はい、ソレ」
目線と一緒に指差した場所は、先ほどから土方と隊士達もずごく気になっていた 場所。
首の下で腹の上。
男であるはずの近藤が在ってはならない部分。
おっぱいが近藤の胸にあった。
「どどどどどど、どうしよう!!トシっ!?おおおっぱいがっ!俺の胸におっぱいがっ!!」
「落ち着けぇぇえ!近藤さん!!びょ、病院に行こう!!今すぐ行こう!!! そ、そうすりゃ!何か解決するかもしれねぇ!!」
「おおお、お、おうよ!合点!!」
急いで着替えて、急いで屯所から病院へパトカーで向った。
「完璧に女性体になってますね」
額が少し後退している、眼鏡をかけた医者は手に持った紙を見ながら目の前に 座っている近藤に言った。
机の上には幾枚かの検査の紙が乗っかっている。
まるで、一ヶ月前に聞いた「風邪ですね」と聞いたくらいに軽いものだった。
「え〜と…それは、俺が完全に女になってしまったという事ですか」
聞き返した近藤は着流し姿の普段通りだが、いつもは巻かないサラシが胸には あった。そして、アゴヒゲが綺麗に剃られていた。
「そうですね…染色体が完全完璧XXになってます。書類上も貴方は女ですし、 見た目も女性のようにふっくらと脂肪がついていきますね」
「はぁ…」
「これから胸も大きくなりますし、子宮も出来上がってくるので、ホルモン剤を 定期的に打たないといけませんから病院に週4日は来て下さいね」
「はぁ……」
「それから、家でも食後3回にこの薬を飲んでください、でないと痛い思いを しますから。必ずですよ」
「はぁ………」
「薬は窓口で受け取ってください。それじゃ、お大事に」
「はぁ…………」
「という事らしい…」
診察室から出てきた近藤は窓口で貰った薬袋を手に待合室に居た土方達、面々に 向って先程までの会話をありのまま教えた。
「全然まったく解決してねぇじゃねーか」
そう言った次の瞬間には抜刀して、さっきまで近藤を診察していた医者に切っ先を 向けて見下ろしていた。
抜刀から診察室までの時間。たったの2秒、ありえない早業だった。
「さぁ、さっさと近藤さんを男に戻してもらおうじゃねーか?あ゙あ゙…!!!」
ドスの効いた声を、震えて腰を抜かす医者に言う。
獲物を睨む狼のように瞳をギラギラと光らせて相手を威嚇する。
背後には壊れた扉と倒された器具や本棚が余計に土方の凶暴さを上乗せしていた。
たったの2秒で、診察室が荒らされて医者はただただ、狼狽するばかり。
「こちとら8時間も待たされたんだ、その結果がコレだってのは気にいらねぇなぁぁぁ!!!」
喉に向けた切っ先を一度、遠くに持っていき、医者の近くにあった診察道具へと 一気に振り下ろす。
『ガコン』やら『キィン』やらの金属が潰れる音と響く音が一緒に鳴って、 可愛そうな診察器具は粉々に砕け散った。
その破片が壁やガラスに突き刺さり、土方の頬にも掠ったが本人はそれ程気にしてい なかった。
凶悪な狼に狙われた哀れな獲物は「ヒィィィ…」と小さな悲鳴を上げるだけで精一杯の 様子だった。
「なぁ、頼むよ。早く近藤さんを男に戻してくれねぇか?」
頼んでいるのか脅しているのか解らない。
そっと刃を首に持っていき軽く引く、皮一枚だけがうっすらと切れた。
血は流れていない。
「……トシ、それじゃあ、危ない人以外の何者でもないから止めなさい…」
周りの隊士達も土方に合わせて、ヤ●ザのごとく。ガンをくれて居る者や 土方と同じで抜刀している者も居た。
沖田は飄々とした態度で「土方さん、そのまま飛ばしてくれよォ」等と怖い発言を 出している。
「だからって近藤さん『はい、そうですか』って納得できるわけねーだろ!」
「そりゃあ、俺だって納得いかねぇけど、医者がどうしようもねーて言ってるんだ。 本当にどうしようもないんだろう」
刃先は医者の首に当てたまま、近藤に向き直る土方は反論を出す。
土方と同じ気持ちであろう隊士達も首を縦に振る。
何とか皆の興奮を治めようと近藤は静かに諭そうとするが、誰もが聞く耳を持たない。
そんな中、恐ろしい発言を投下した沖田が、壊れたハサミを器用に手の平でクルクル と遊ばせながら、気絶一歩手前の医者を正面に屈んだ。
「お医者様よォ、本当に近藤さんは元には戻れないのかィ?」
突然に話し掛けられて驚く医者が、目の前で振り回されているハサミに眼をあちら こちらで動かしながら、何とか口を開いて一気に説明する。
「近藤さんの場合、天人に感染する風邪が偶然にもうつってしまい、挙句に天人 の薬を服用してしまった所為で体の染色体とホルモンバランスが崩れて、 女性の染色体が勝ってしまったんです!元々、男性にも女性ホルモンがありますから 、こんな状態が起こっても不思議ではないんです!!早くに処置していれば、完全に 女にならずに済んだのに、染色体Yが無くなってから来られても 何も出来ないんです!!!」
涙ながらに息継ぎ無しの早口で答えた医者はとうとう意識を手放した。
医者が喋り終えた途端、水を打ったような静けさが辺りを包んだ。
もしかしたら『元に戻れるかもしれない』などの淡い気持ちが心の端っこらへんに あったのだが、医者がこれでもかっと云うほど、元に戻れない要素を吐き出され、 隊士達全員は何も言えなく、黙るしかなかった。
そんな居た堪れない空気の中で。
「そうか……俺はやっぱり男には戻れないか………」
近藤の切ない声が響いた。
顔を見れば、どこか諦めの混じった自虐的な笑みを浮かべて、 近藤はその場から出て行った。
誰もが追いかけれない雰囲気の中、土方は慌てて近藤の背中の後を追った。
夕日が沈む土手で近藤は膝をかかえて泣いていた。
ボロボロと流して、鼻水もついでに流していた。
涙を流した瞳に夕日は染みて、眩しい。山吹の空に黒のカラスが飛んでいた。
「…こんな所に居たのかよ」
声の主は解っている。尚のこと顔が見れない。
無言で隣に座る男は懐からタバコを出して、火をつける。
吐き出した灰色が茜の空に浮かんだ。
土方は額に汗を流して、服装は崩れて、息は少し上がっていた。
二人して半分以下になった太陽を見ているとポツリと近藤が静かに喋り始めた。
「…今思うと、あの半端なく痛かった下腹部の痛みは子宮をつくってたんだなぁ」
「……………」
「おっぱいもこれから出てくるって言うし…」
「……………」
「今はパッと見、男の身体に見えてっけど、その内、女の様に丸っこくなって くるしなぁ……」
「……近藤さん」
「なぁ…トシ。俺、このまま真選組に居てもいいのかな………」
「当たり前な事聞いてんじゃねぇよ」
「……………」
「アンタが居てこその真選組だろ、大将はアンタだよ」
「でもよ…」
「ウダウダ言ってねぇで、帰るぞ」
星の輝きが目立つ、夕暮れと夜の間の空で、土方は短くなったタバコを肺に溜めて、 一気に吐いた。
立ち上がりついでにタバコを捨てて、足で揉み消す。
先に歩き出すが、いつまで経っても近藤の歩く足音が聞こえてこない。
不思議に思って振り向けば、近藤は俯いたまま、土手の場所に突っ立っていた。
鼻をスンっと鳴らして立ち尽くす近藤の手がいつもと比べると何故か愛しい気持ちが 溢れ出て、気付けば側によって手を見つめていた。
数秒見つめてから項垂れた頭に目線を移動させる。
グスグスとまた泣き始める近藤が母を恋しがる子供に見えたので、乱暴な仕草で 手を掴み屯所への道を歩き出した。
青と赤が混ざる空の下を無言で歩いていた。
すると、後ろから「…ありがとな」と小さな小さな近藤の言葉が聞こえた。
その返事の代わりに土方は繋いだ手を強く強く握り掴んだ。
握った手のひらが熱く感じた。顔が赤くなるのも感じた
「あー……酒が飲みてぇな…」
照れ隠しの大声で薄い月に向って言った。
背中の後ろで近藤が笑ったような気がした。
終
土方と近藤さんの愛の軌跡のはじまり(意味不明)
コレ、続かないです。シリーズにします。
続きにすると話の内容が解らなくなるので…。
とりあえず巨乳の近藤さんが書きたいので、そこまで頑張ります。
ごめん、6ハルは巨乳好きなんです(誰も聞いてません)